その2

6/7
前へ
/21ページ
次へ
秋良は、夫に尋ねた。 それには答えず、慎一郎は言う。 「……食事はどうしてる。トイレは……」 「え? ええ、この子ですよね、とりあえず牛乳をあげました。お手洗いは……何をすればいいのです?」 「ここへ来て、一度も用を足してない、と」 「ええ、そう」 「それはまずい!」 慎一郎はやにわに立ち上がり、仔猫をむんずと掴んで手洗いへ直行した。 「慎一郎さん、お食事中!」 「生まれて間もない仔猫は、自分で排泄できないんだ」 お前はオスだね、と言って、ぬるめのお湯で浸したティッシュでお尻周りをふく。 「三毛猫の雄って、珍しいのではなくて?」 妻のひとことに、夫は眉間に皺を寄せた。確かに、貴重だとは言われているが、いや、しかし。彼は聞こえないふりをした。 程なく、仔猫は、ちーっと用を足した。 「こうやって刺激しないと出るものがでないんだよ、これぐらい小さいと母猫が舐めて排泄を促すんだ。そして、牛乳はだめだ、仔猫用の餌かミルクがあるから……」 そこまで言いかけて、彼は口をつぐんだ。 白々とした表情でこちらを見ている妻に気付いたので。 「……よくご存知ですこと」 「いや、その」 「さっきの問いにお答え下さいな、なぜペットはダメなんですの?」 はぐらかしは許しません、と彼女の目は告げる。 はあー、とため息をついて慎一郎は手の平に乗っている仔猫を見た。 猫はきょんとした目で慎一郎を見つめ返している。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加