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秋良は、夫に尋ねた。
それには答えず、慎一郎は言う。
「……食事はどうしてる。トイレは……」
「え? ええ、この子ですよね、とりあえず牛乳をあげました。お手洗いは……何をすればいいのです?」
「ここへ来て、一度も用を足してない、と」
「ええ、そう」
「それはまずい!」
慎一郎はやにわに立ち上がり、仔猫をむんずと掴んで手洗いへ直行した。
「慎一郎さん、お食事中!」
「生まれて間もない仔猫は、自分で排泄できないんだ」
お前はオスだね、と言って、ぬるめのお湯で浸したティッシュでお尻周りをふく。
「三毛猫の雄って、珍しいのではなくて?」
妻のひとことに、夫は眉間に皺を寄せた。確かに、貴重だとは言われているが、いや、しかし。彼は聞こえないふりをした。
程なく、仔猫は、ちーっと用を足した。
「こうやって刺激しないと出るものがでないんだよ、これぐらい小さいと母猫が舐めて排泄を促すんだ。そして、牛乳はだめだ、仔猫用の餌かミルクがあるから……」
そこまで言いかけて、彼は口をつぐんだ。
白々とした表情でこちらを見ている妻に気付いたので。
「……よくご存知ですこと」
「いや、その」
「さっきの問いにお答え下さいな、なぜペットはダメなんですの?」
はぐらかしは許しません、と彼女の目は告げる。
はあー、とため息をついて慎一郎は手の平に乗っている仔猫を見た。
猫はきょんとした目で慎一郎を見つめ返している。
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