二人の少年。

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一方、及川家の母屋では、陸攻の誕生から遡ること約二ヶ月前の大正5年4月1日に、及川家の跡取り息子である悟(さとる)が生まれている。 つまり、法律上は悟と陸攻は兄弟という事になるのだが、この『兄弟』は人間の男の子という点を除けば、何もかもが正反対であった。 豪商の跡取り息子として何不自由なく育ち、身体も態度も丸々と肥え太った悟。 女中兼郷四郎の妾でもある加津子の息子として生まれ、食うや食わずが当たり前の環境に育ったが故に、背ばかりがひょろひょろと伸びただけでガリガリに痩せた陸攻。 いつも上等の服を着て、親の七光りも手伝い肩で風を切りながら道の真ん中を歩く悟。 学校以外ではいつもボロボロの服を着て、母を気遣うが故に及川家の者…特に悟の機嫌を常に窺いながら、道の端っこを遠慮がちに歩かねばならない陸攻。 そのさまを見たら、十人中九人までが陸攻を悟の弟とは思わないに違いなかった。
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