二人の少年。

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広くはない村の事であるから、村の者が悟の裏の顔や本性を偶然見掛ける事もないわけではない。 しかしそれらの者たちは、悟を止めるどころか見て見ぬふりをするばかりであった。 誰とて自分とその家族や友人は可愛い。 過去下手に陸攻の肩を持ったばかりに、悟に出鱈目な告げ口をされた挙句に及川家に睨まれ、収入を断たれ村八分に遭った挙句符礼亜村を追われた者は少なくないのである。 そしてその見て見ぬふりをする者の中には、もちろん陸攻の伯父である頼太と、祖父である寅治(とらじ)祖母であるウマも含まれていた。 更に、本来公平でなければならない筈の学校の教師たちは、入学以来悟を贔屓してばかりで陸攻など家畜の屁とすら思ってはいない。 つまり陸攻の味方は、符礼亜村中を探しても龍南神社神主の山本権座ゑ門(やまもと=ごんざえもん)と母加津子の二人だけなのだ。 学校の同級生はもちろん、上級生や下級生を見渡しても、自ら陸攻に近付く者など誰ひとり存在しなかった。
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