二人の少年。

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 そんな陸攻を取り巻く絶望的な環境が好転する兆しを見せ始めたのは、昭和7年(1932年)の夏休みの事である。 当時旧制那覇一中の四年生であった陸攻は、どういう理由からか夏休みが始まるなり、山本神主に龍南神社へと引っ張って行かれたのであった。 そして陸攻がいる間中龍南神社を中心とした御近所一帯に、山本神主の怒鳴り声が文字通り朝から晩まで響く訳である。 どうやら山本神主は、陸攻の知力体力精神力が、中学生にしては余りにも頼りない事を叱っているらしかった。 「陸坊。 おぬし、ワシの古巣に行く気はあるか?」 山本神主が社の中で陸攻にそう言ったのは、昭和7年の夏休みが始まって間もないある日の事である。 山本神主が陸攻にそんな事を言ったのはこの日が初めてであったから、陸攻は悟に押し付けられた夏休みの宿題の束を慌てて背中の後ろに隠しながら口を開いた。
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