2話 野に死す―――決別の咆哮

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「とりあえず猛獣にでもなってみてよ。まあ、この辺なら狼が妥当ね」 「お、おい…まだ話は終わってない!」  青い光の被膜が幾重に覆い、大事そうにアランを包み隠す。 「そう……いい子ね。ちゃんと私のいうことを聞いて」  まるで幼子に言い含めるように、エイラはゆっくりと繭に語りかけた。 (――――そう、ゆっくりと目を開けて)  繭を抱き締めた瞬間、エイラはそのまま立ち竦む。  そう遠くない場所に、継母達の気配を察したのだ。 (チッ、招かれざる客だわ) 「まったく、冗談じゃないわよ。アラン…途中で悪いんだけど起きて頂戴」  声に応えるように、繭表面が軋んだ。  エイラの触れた場所から破壊が進み、やがてその一部がぐずりと床に溶け落ちた。 「アラン?」 「ああ…」  恐る恐る問いかけると、聞こえるか聞こえないかの小さな声が応えた。 「あら……」  パラパラと繭の殻が割れて、床に転がる。 「ち…きしょう、こら、エイラ!」  星屑を撒いたような中から現れたのは…。 「アラン…随分と可愛くなったわね」  繭から孵ったのは、艶々とした鳶色の栗鼠だった。 「誰の所為だ、誰のっ…自力でも戻れないようにしやがって!」 「殻がついてるわ、じっとして」 「それに…男が可愛いと言われて嬉しい訳ないだろうがーーーっ!」  キイキイじたばた…と怒り狂う栗鼠に、エイラは凄みを滲ませて艶然と笑みを向けた。 「いいじゃない。可愛いわ、アラン」  ふわり…と唇を寄せられたアランは総毛立ち、コテッと壊れた玩具よろしく床に落下した。 「ぎゃあっ…」 「ふふ、そうしてると何だか束子みたい」  戯れとはいえ、曲がりなりにも意中の彼女にキスをされたアランはゼンマイ式の玩具のような錆び付いた動作で悶える。  愉しんでいる場合ではないのは解るが、どうしても嬉しくて仕方がなかった。 (言ったら怖いので言わないが…) 「ふん、まあ我慢してやる」  エイラの腕を伝って肩に留まったアランは、照れ隠しに『キィ』と尻尾を振った。
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