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「化物…か。あたしからすればお前達の方がよっぽど化け物に見えるぞ。…人に紛れて、己の種を見失うとはな」
『今のご時世、人間の形をしないと生きてけないんだ…アンタだってそれは同じだろうさ。一体、それの何が悪いってんだい!?』
「相手が悪い。息が触れただけでも冒涜だと思え、よくもわが父を――――…汚らわしい女怪風情が!!」
再び、エイラの瞳が怒りを刷いて緑く燃えた。
「去ね…我が命惜しくば、疾く去るがいい。…命までは奪わぬ」
怒りに燃える翡翠を向けられ、既に人型を保てなくなったセシリアと子供達は、重なり重なり先を争って戸口から逃げていく。
その後ろ姿は、歳を経た女狼だった。
「エイ…ラ?」
戸棚の陰からひょっこりと顔を出したアランが、慌てて腕を駆けのぼる。
「ここを出るわよ…じきに壊れるから」
「壊れる?」
アランは解らないようで、栗鼠の華奢な首を傾げる。
「そう、ここに居たら巻き込まれてしまうからね」
指先で喉を撫でられて、栗鼠は気持ちよさげに小さく喉を鳴らした。
だが、彼女のいう理由は道理的ではないのだ。
まだ理由が解明された訳ではない。
魔術師…ウィザードと呼ばれる者達は超常的な力を持っている。
王族に従うもの、または街に於いて医者と魔法使いを兼業する者。
エイラ、彼女は……そのどちらにも当て嵌まらない。
人間の魔術師には、空間を自在に操る術は使えない。
使えるだけの力も、技量も存在しないのだ。
つまり彼女は――――人間ではないことになる。
「エイラ…君は、人間ではないのだね?」
それならば、不可解な総ての事象にも説明がつく。
「…気付いていたのね。アラン、賢い子」
エイラは悲しげに表情を歪めると、アランの術式を解いた。
――――ふわ…っ
と、同時にアランが元の人型に戻る。
「エイラ?」
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