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アランの色素の薄い月色の髪が、風に波形を描く。
「やっぱりこっちの方がいいわね……素敵」
「なっ!? お…おいエイラ? どこ行くんだよ」
脈絡もなしに褒められて、真っ赤になったアランが慌ててエイラの後を追う。
「貴方は、私を識(し)っても恐れないかしら?」
「え…」
セナンは、息を詰めて立ち止まった。
黄昏の残滓に照らされたエイラが、この上なく辛そうに笑っていたからだ。
(別に、恐れてるんじゃない。これは…憧れと畏怖が混じった…)
名前のない、何というか甘酸っぱい気持ちにさせるもの。
(これが、恋というやつなんだろうな…)
「俺は大丈夫だよ…エイラを恐がったりしない」
「嘘つき。フフ…髪の毛が逆立ってるじゃないの……いいわ、あたしが少し意地悪だったわね。誰でも皆恐怖心は持っているから、それが当り前よ」
「別に怖くなんかないぞ、俺は!」
「解ったから、怒らないで頂戴よ」
「悪い……。エイラは、ずっとあの家に独りだったのか?」
「初めは、三人で暮らしていたわ。両親と私で、何事もなく、平和に」
アランはエイラが小刻みに震えているのに気付いて、きつく手を握った。
エイラの脳裡には、次々と断片的に映像が浮上する。
母親の死に顔。
父親の慟哭。
そして、あちこちが壊れ…崩れた懐かしい家。
「エイラ…」
「ダメね、これくらいで震えたりして…バカみたい」
「エイラ…っ!」
明らかに正気ではない彼女。
すっかり瞳孔が開いてしまっている。
アランは声を荒げて、震え続けるエイラの背をきつく抱き締めた。
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