2話 野に死す―――決別の咆哮

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「アラン……?」 「大丈夫だ…大丈夫だから、俺に話してくれないか? 君を、もっとよく知りたい」 「アラン…」 「聞かせてくれ、エイラの話を…」 「ええ…――――でも、気が遠くなるほど昔の話で、長いの。口で言うには時間が掛かるから」  繊細な指先が、アランの頬に添えられた。  そして…唇には柔らかい温みが触れる。  風が頬を撫でる感覚に目を開けると、アランの視界一杯に金の穂先が揺れていた。  鮮やかな空の青と、金色の対比――――。  まるで、そう…彼女のようだ。 「アラン…」  振り向くと、隣にはエイラが微笑んでいた。 「ここは、一体…?」 「記憶の海……始まりの世界の風景よ。ここでは皆、綺麗なまま」  エイラは、静かに歌うように語り始めた。 「昔、昔のこと。 人間達がまだ文明を持たなかった原始の頃。主は世界を二分したの。 人間と『私達』の世界に……やがて、人間達が文明を起こして興亡を繰り返すうち、私達は忘れ去られ…疎遠になってしまい…けれど、私達同胞の中にも人間と親交しようとする者たちも居た」 「……っ」 「私の両親も、その一派だったの。でも…それは赦されなかった。種族間に戦が起こり、怒り狂った長が裏切りものに呪いをかけたわ。そうする内に同胞達は呪いに斃れ、次々と数を減らしていき、あたしが龍族(ズミェイ)・エアレンディル(水龍)の最期の一人」 「……龍だったのか、エイラ」 「『話はお終い、さあ目を開けて』」  背中を押された感じに振り向くと……振り向いたつもりで顔を上げると、アランはゆったりと樹に凭れていた。  どうやら、寝ていたらしい。  少し間を開けた場所では、薪が橙色の焔を上げている。 「夢……」 「アラン、気がついた?」  水を汲んだ飯盒を片手に、エイラが微笑む。  ホッとした表情で傍らに膝をつき、杓を差し出してきた。 「お水よ…飲める? ごめんなさい、貴方の荷物から勝手に出してしまって」  杓の水を口に含む。  水は、乾いた喉に冷たく甘かった。 「ああ…ありがとう」 「礼をいうのはこっちの方よ。アラン、連れて来てくれてありがとう」  また悲しげなエイラに、アランは柔らかく微笑んだ。
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