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「アラン……?」
「大丈夫だ…大丈夫だから、俺に話してくれないか? 君を、もっとよく知りたい」
「アラン…」
「聞かせてくれ、エイラの話を…」
「ええ…――――でも、気が遠くなるほど昔の話で、長いの。口で言うには時間が掛かるから」
繊細な指先が、アランの頬に添えられた。
そして…唇には柔らかい温みが触れる。
風が頬を撫でる感覚に目を開けると、アランの視界一杯に金の穂先が揺れていた。
鮮やかな空の青と、金色の対比――――。
まるで、そう…彼女のようだ。
「アラン…」
振り向くと、隣にはエイラが微笑んでいた。
「ここは、一体…?」
「記憶の海……始まりの世界の風景よ。ここでは皆、綺麗なまま」
エイラは、静かに歌うように語り始めた。
「昔、昔のこと。
人間達がまだ文明を持たなかった原始の頃。主は世界を二分したの。
人間と『私達』の世界に……やがて、人間達が文明を起こして興亡を繰り返すうち、私達は忘れ去られ…疎遠になってしまい…けれど、私達同胞の中にも人間と親交しようとする者たちも居た」
「……っ」
「私の両親も、その一派だったの。でも…それは赦されなかった。種族間に戦が起こり、怒り狂った長が裏切りものに呪いをかけたわ。そうする内に同胞達は呪いに斃れ、次々と数を減らしていき、あたしが龍族(ズミェイ)・エアレンディル(水龍)の最期の一人」
「……龍だったのか、エイラ」
「『話はお終い、さあ目を開けて』」
背中を押された感じに振り向くと……振り向いたつもりで顔を上げると、アランはゆったりと樹に凭れていた。
どうやら、寝ていたらしい。
少し間を開けた場所では、薪が橙色の焔を上げている。
「夢……」
「アラン、気がついた?」
水を汲んだ飯盒を片手に、エイラが微笑む。
ホッとした表情で傍らに膝をつき、杓を差し出してきた。
「お水よ…飲める? ごめんなさい、貴方の荷物から勝手に出してしまって」
杓の水を口に含む。
水は、乾いた喉に冷たく甘かった。
「ああ…ありがとう」
「礼をいうのはこっちの方よ。アラン、連れて来てくれてありがとう」
また悲しげなエイラに、アランは柔らかく微笑んだ。
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