2話 野に死す―――決別の咆哮

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「謝るな。こっちは礼を言っても足りないくらいなんだから。まさか君が龍だったとはね……とても心強いよ」 「いつもは、ただの人間なのよ。龍の方は奥の手…誰にも秘密ね?」 「勿論だ……エイラ」  深々と唇が重なり、エイラは驚きの表情のまま固まった。 「ア、アラン?」  途轍もなく歳の離れた男に、いいようにあしらわれていること自体に、エイラは驚きを隠せずにいた。  今までこういった経験が一度もなく、慣れていないのは自分でも納得しているが……何かが釈然としない。 「尊敬しているんだ…。俺達人間よりも長く生きてきたんだろう? もっと、いろいろと話を聞きたい」  すっかり心酔した熱っぽい眼差しが、容赦なくエイラに食らいつく。  粘りつくような甘い眼差しは、ありありと彼からの好意を物語っていた。 「アラン、まずは離してくれなきゃ…ね?」  やんわりと腕を引き剥がしかけ、瞬間エイラは小さく息を詰めた。 「ふざけてる暇じゃないみたいね。アラン…あたしから離れないで頂戴」 「エイラ…?」  やっとアランの耳が低い唸り声を聞き取った頃には、既に周囲を野獣に囲まれていた。 「セシリア……またお前か」 『覚えておきな、狼の恨みは深いんだよ。よくもあたし達を追い出してくれたねぇ…』  セシリアと、まだ幼体である彼女の娘達がエイラとアランの周りを歯噛みしながら徘徊する。 『ここはあたし達の縄張り(テリトリー)なんだよ、さっさと出て行け!』  牙を向いたセシリアがエイラを襲う。  だが、エイラとて黙ってやられる訳にはいかない。 「エイラ!?」  ―――――ガキィイン!!……ガッッ!  セシリアの牙とエイラの爪がぶつかりあい、拮抗しながら火花が散る。 『おのれ……エイラ、何処までも目障りな!!』 「あたしを狙う理由は…それだけか!!」 (このままじゃダメだ、殺すか…殺されるかのどちらかしか道はない…) 『ギャアアアアウウっ!?』  エイラが躊躇している間に、突如セシリアが悲鳴を上げてもんどり打った。
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