3話 始祖の血を継ぐ者――水龍の歌

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(狼だぞ、そう簡単に信じられるものか!!)  ……チリ、ン!  内心で毒づいていたアランの耳に、瞬間ハッキリと鈴の音が届いた。  魔術師が使う指令…つまり遣い魔には様々な種類があるが、今は置いておこう。  伝令の発する音は一種の信号、合図なのだ。 「エイラ…?」  明けかけの仄青い空に向けて、エイラは迷いなく手を伸ばした。 「御苦労さま…」  伝令を受け取るエイラの横顔はさりげなくも妖艶で、アランは再び見蕩れてしまう。  薄闇の中で燐光を放ちながら、エイラの指先に翡翠色の翅虫が留まった。  それを認めて、傍らに居たアランはそっと指先を差し出してみる。 「この蟲が指令…?」  訊ねたアランに、エイラは淡い微笑を浮かべた。 「綺麗でしょう」  繊細な羽を微かに震わす陽炎に、アランはゆっくりと確かに頷いた。 「テュールも、もうすぐ着くみたいね」  役目を終えた翅虫は、エイラの周りに青銀色の粉を撒きながら旋回すると、パチンと小さく弾け大気に溶けていった。 「……っ」  『テュール』と聞いた瞬間、紅潮していたアランの顔色が急転直下に青褪めた。 「ああ、大丈夫よ。彼は人間なんか食べないわよ」 「本当?」  安心してつい間抜けな返事をしてしまったアランは、すぐに咳払いをして誤魔化す。 「ええ。だって彼は…」 【スト~~~~~ップ!】 「ふ…ッギャッ!?」 【んもぅ…マスターったら、その先は言いっこなし!】  どげしっ!と突然に脇に転がされ(ふっ飛ばされ)たセナンは、勢いよく地面とご対面。  あんまりである。 【あら。マスター…誰よこの子?】 「テュール…落ち着きなさいな。大丈夫? アラン」  やんわりと起こされたアランは、衣服に付いた土を払い、理不尽な攻撃を食らわせた張本人を昂然と睨んだ。 「アランというの、あたしを連れ出してくれた人よ」 【読みのとおりになったか…】  セナンは僅かに警戒を滲ませながらも、切なげなテュールの傍に屈んで目線を合わせた。
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