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「エイラから、一通りの話は聞いた。けど、まだ何かあるんだろ?」
テュールは小さく溜息をすると、アランの頭に前脚を乗せた。
「ふが…っ」
本人としては撫でたつもりなのだが…重力に従い、アランの頭は再び地面と仲良しになってしまう。
「おいっ!」
【悪い。…加減が難しくてな】
もがもがと暴れるアランから手をどけて、テュールは牙を剥き―――笑った。
【まだ子供なのに、ひどく厄介なことになっちまったなァ】
労いの言葉に、ずくりと忘れかけていた疵が脈打つ。
一瞬、アランの表情に陰りが射した。
心の奥に蟠る呪いが、緩慢な動作で黒々とした手をアランに伸ばし、覆っていく。
【でも、大丈夫だ】
小刻みに震える手を、テュールがそっと舐めた時。
アランを呑み込みかけた闇が、一瞬にして爆ぜた。
びくりと我に返ったアランは、舐められた手を慌てて胸許に引き寄せる。
表情には、明らかな怯えが見て取れた。
「(ダメだ。中に闇がいる)少し、休もうか」
「エイ、ラ?」
怯えの闇を宿して震える瞳が、ようやくゆっくりと焦点を結んだ。
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