3話 始祖の血を継ぐ者――水龍の歌

3/10
前へ
/35ページ
次へ
「エイラから、一通りの話は聞いた。けど、まだ何かあるんだろ?」  テュールは小さく溜息をすると、アランの頭に前脚を乗せた。 「ふが…っ」  本人としては撫でたつもりなのだが…重力に従い、アランの頭は再び地面と仲良しになってしまう。 「おいっ!」 【悪い。…加減が難しくてな】  もがもがと暴れるアランから手をどけて、テュールは牙を剥き―――笑った。 【まだ子供なのに、ひどく厄介なことになっちまったなァ】  労いの言葉に、ずくりと忘れかけていた疵が脈打つ。  一瞬、アランの表情に陰りが射した。  心の奥に蟠る呪いが、緩慢な動作で黒々とした手をアランに伸ばし、覆っていく。 【でも、大丈夫だ】  小刻みに震える手を、テュールがそっと舐めた時。  アランを呑み込みかけた闇が、一瞬にして爆ぜた。  びくりと我に返ったアランは、舐められた手を慌てて胸許に引き寄せる。  表情には、明らかな怯えが見て取れた。 「(ダメだ。中に闇がいる)少し、休もうか」 「エイ、ラ?」  怯えの闇を宿して震える瞳が、ようやくゆっくりと焦点を結んだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加