3話 始祖の血を継ぐ者――水龍の歌

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「おいで。目を閉じて、そう……深く、ゆっくり息を吐くの」  柔らかな腕に抱かれて、アランは促されるまま深く息を吐いた。  全身に沁む安心感に、何故なのか不思議と強張りが解けていく。 「自分を、見失ってはダメ。…影に喰われてしまう」  エイラはアランの髪を梳きながら、宥めるように軽く背中を撫でた。 「怯える必要はない。貴方は、その要素を持っていないから」 「……」  それに、アランは応えない。 「ラティアを盗んだのは…貴方ではないのでしょ?」 「…如何して、そうだと言える?」  鋭い怒りにも似た感情を映す蒼が、エイラを凝視する。 (孤独な瞳。あたしは…この目を知ってる) 「あたしは、アランが悪人じゃないってこと…ちゃんと分かってるもの」 「だが…っ!」 「これ、取り返してくれたでしょう?」  言い募るアランの前に、エイラはポケットから母親の形見を取り出した。  千切れてしまって、残ったのはヘッド・パーツの蒼い石だけ。  けれど、エイラ唯一の宝物だ。 「あ…」  青い石は形が解けて、エイラの掌で霧散した。 「消えた!?」 「役目を終えたの。これはね、先代のラティア…あたしの封印であり、母の最後の一欠片だった」 (怯えようからしても、陰謀に間違いないわね。何らかの言いがかりをつけて、アランを『犯罪者』の名目で都から追い出した者がいる) 「俺は……盗んでなんかいない!」  糾弾した語尾が、掠れて消える。  沈むように悄然と俯いた瞬間、アランを再び柔らかな腕が包んだ。 「まやかしは、光の許では形を為さない。大丈夫、ドンと構えてらっしゃい。…ね?」  零れるように微笑んだエイラにつられて、やがてアランは強く眦を拭った。 「エイラ…」 【アタシもいるし、心配な~いわよっ!】  べふっ!とテュ-ルが怪力で背中にどついた弾みで、2人は悲鳴を上げる間もなく揃って青草の茂みに突っ込んでしまった。 「っ!??」  隙を狙ったのかなんなのか、無残に絡まった2人を見てテュ-ルは千切れんばかりに尻尾を振っている。
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