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【エイラ、なぜあの家から出た? あれはお前を隠す砦だったのに】
歩みを止めたテュールの瞳が、非難を込めて真直ぐに主を見つめた。
「あたしは…『誰かを失う』歯車を壊したい。奴らとは、共に暮らす必要性が見出せなかった…只それだけよ」
【(先代の……リシルの時のように)すぐに、追手が来る…狙い撃ちにされるぞ!】
「そうね。でも……みすみす殺られはしない。あたしはね、ずっと持ち去られた自分(ラティア)を取り戻したかったの。その為だけに、生きてきたわ」
今にも泣き出しそうなエイラに、テュールはきつく寄り添った。
【エイラ…】
「それにね…もう、貴方みたいな人を作りたくないの。テュール、憶えている?」
【俺が……禁忌を犯した、元人間だってことだろう? 忘れたくても、忘れられないさ】
どれほど昔だろうか。
それすらも忘れてしまうほど、遥か忘却の彼方のことだ。
テュールは、かつてズミェイ…始祖龍について調べていた高位魔術師だった。
“始祖龍の宝玉・ラティアは、得た者に永遠の美と不死を齎す”
一体、誰が言い出したのかなどは不明。
実しやかに囁かれる噂に、慾を持った者たちが群がってゆき…その様は、零れた砂糖に群がる蟻の如く。
拙い噂話だった仮説は、いつしか頑なな不文律に成り上がっていた。
ラティアは……誰かの手に負えるものではない。
時間に干渉することは、何人においても禁忌。
よって、触れた者には重い罪科が下されるのだ。
ラティアは、時を紡ぐ始祖龍のみが持つ『命』そのもの。
誰も救いはしない。
そんな事実など識らずに、皆…ラティアを手に入れれば救われると信じ込んでいた。
テュールも、当時その一人だった。
【……行くんだな?】
「ええ。必ず、ラティアを取り戻すわ」
【…解った】
「王都へ…。まずはアランの冤罪を解かなければ」
【その前に、少しアイツに話しておきたいんだが……『ラティアの真実』を。いいか?】
「ええ」
テュールは左右に大きく尾を振ると、ゆっくりとその形を熔かしていった。
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