3話 始祖の血を継ぐ者――水龍の歌

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 テュ-ルは左右に大きく尾を振ると、ゆっくりとその形を熔かしていく。  瞬間…雲母が散るように、燐光が宵闇に咲いた。  狼だったものは飴細工のように一度形を失くした後、急速に膨張してその輪郭を露わにする。  やがて靴底が草を踏んだ気配を察し、エイラは顔を上げた。  高位の魔術師の証である鮮やかな青の長衣が、風を含んで視界一杯に柔らかく揺れる。  それは幾分か色褪せ、毛羽立っていた。 【俺の昔話も含めて…いいだろう?】  腰まで銀色の髪を伸ばした青年は、蜜色の瞳に静かな悲哀を湛えてエイラを見つめた。 「構わないわ。今が総てを話す『その時』だから」  元の姿に戻ったテュールは、舒ろにエイラを抱き締めた。 【凡ては、俺が始まりだ…。すまない】  来た道を戻っていくテュールを、エイラは無言で見送った。  言葉でならば、なんとでも言えるのだ。  一言でも、労いは軽々しく口には出せないことを、エイラは深く理解していた。 ◇ 「あの2人…。遅過ぎだろ…っ」  待つように言われた場所で、アランは鬱蒼とした木々の間から垣間見える僅かな夜空を見ていた。 (すぐに戻ってくるって言ったのに、来ないじゃないか)  小枝が微かに爆ぜる音が、そこで澱んでいた孤独を煽りたてる。 「エイラ…」 (アイツと、なに話してるんだろう…?)  穏やかに照らす焚火の明かり、それが一層この空間に自分1人しかいないのだという暗い気分にさせてならず、焔から目を逸らしたアランは膝を抱えて再び夜空を見つめた。 (なぜ、こんなにも落ち着かない? 自分の気持ちが、解らないことなんかなかったのに…っ)  彼女…エイラが好ましい。  気持ちは確定しているのに、それがLIkeなのかLoveなのかと問われるとその途端に解らなくなる。  何もかもが混ざって、ドロドロになってしまうのだ。  苦酸っぱいような苦しみだけが、消えずに後をひく。
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