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【おい、起きているか?】
「のあ!?」
油断していたアランは、背後から聞こえた苦手な狼(テュール)の声に、言葉どおり飛び上がった。
「あ、れ…?」
だが不思議なことに、いま現在目の前に佇むテュールは人間にしか見えなかった。
「テュール、なのか?」
おずおずと訊ねるアランに、テュールは僅かに苦笑を浮かべた。
【お前もウィザードならば、それくらい気配で解るだろう…】
確かに、その気配も毒舌も彼そのもので。
アランは肯定の意味で、頻りに瞠目する。
「その長衣…最上位(アムディーア)の!? で…でも、色が違う…」
【仕方ないだろう。なにせ千年も経つんだ。
もう、この姿で生きて千年にもなる】
「テュ…いや、貴方も人間…ウィザードだったんですか?」
【その話に、興味があるか…?】
あくまで押し付けようとしない言い方に、アランは『はい』と短く応えて頷いた。
「(自分の知らない…千年の時間。今まで、この人は何を思って過ごしてきたんだろう…?)エイラは…?」
【哨戒中だ。なに、すぐ戻るだろう】
「そう、ですか…」
【……これから王都に向かう】
「えっ……ど、どうして!?」
【どうって…決まっているだろう。まずは、お前を嵌めた黒幕を潰しにだ。そうしてラティアを奪い返し…長きに亘ったこの混沌に、今度こそ幕を曳く】
はっとした表情のアランに、テュールは妖笑を浮かべた。
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