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【“ラティアは、得た者に永遠の美と不死を齎す”…出処も、真実さえ解らない物に惹かれるのは…いつの時代も人間の性なのか。困窮した民は容易く噂を信じ込み、ラティアを崇めた】
翳った表情は火明かりの許でも蝋のように青白く、より悲哀を際立たせている。
「テュール…さん…」
【テュールでいい。ついでに普段通りに話せ】
さん付けで呼ばれ、テュールは驚いたように目を瞠る。
そして、すぐに苦笑を浮かべながら肩を竦めた。
「……教えてくれ。貴方達と…ラティアの関連って一体…!?」
昂然と身を乗り出すアランを宥めて、テュールは懐から取り出した林檎を一齧りする。
【今のラティアは、エイラの物だ。民が崇める、ラティアの正体がなんなのかは、知っているか?】
「い…いえ」
ゆるゆると首を横に振るアランに、テュールは頷き返す。
【ラティアはな…始祖龍の心臓だ】
「し、心臓おお!?」
【そうだ。世界の安定を保ち、時を紡ぐ動力…。ラティアは、始祖龍が親愛を誓った国の神殿奥深くに納められ…アムディーアが護りを務める】
「ひ、人が…ラティアに謁見できるんですか!?」
【いや。本来なら…罷りならんことだ。かつて…かつての話だ、身分を弁えず好奇のみで触れ、あわよくば永遠を手にしようなどと考えた…愚かな男がいた】
「えッ…」
【ラティアに、初めて手を掛けた人間の代表が……俺だ】
「だ、だから…千年もの間、姿も変わらず…?」
【違う。これ以上死ねなくなっただけだ。
俺はな……呪いに蝕まれたその時点で、人間として死んだのさ。小僧、覚えておくといい……そして、決して忘れるな。ラティアは触れた者に呪いは与えるが、誰も救いはしない】
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