1話 逃亡者

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 別に叩き起こされずとも、既に起きているので自分はそれを無言で追い返すだけ。  奴らは、傍で優雅に『シャボン』で遊んでいるが、はっきり言ってかなりどうでもいい。  自分はどうせ、すぐここを出ていくのだから。 「エイラ姉さま、一緒にシャボンで遊ぼう」 「あらダメよォ、姉さまは今お仕事中なんだから…お皿でも割って母さまに叱られたら可哀想じゃないの」  クスクスと、厭味でどこまでも邪魔くさい姉妹だ。 「仕事が溜まってるから、遊ぶなら余所で遊んできな」 「可哀想なエイラ姉さま、あたし達はこれから都に行くのに…独りでお留守番だなんて」 「ほんと可哀想~」 (ウスラトンカチ共め、やっと去ったか)  耳障りな声が消えると、一気に静寂が押し寄せてくる。  今日は珍しくセシリアが里帰りするので、妹達は一緒に出掛けて行った。  エイラは、深く溜息して天井を仰ぐ。  仕事は多いが、それ以上に脅かされることはない。  本当に珍しい、平和な日だ。  エイラは食器洗いと洗濯を済ませ、窓を開けた。  爽やかな陽光と、夏風が吹き込んできてエイラのブロンドを揺らしていく。  エイラは、目を閉じると深呼吸をする。  久し振りに外の空気を満足に吸った気がした。
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