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「まあ…アラン、大丈夫? カゼかしら?」
テュールの唇から逃れたエイラは、慌ててアランの額に手を宛てて自分の額と較べてみる。
「あ、あぁ…大丈夫だ」
この時、アランはしっかりと見た。
…暗黒オーラを背負ったテュールが、舌打ちと口パクを交えつつ『後で覚えてろよ』と呪詛を掛けてきたのを。
凄まじい悪意を目の当たりにして、アランは呑んだ息と共に凍りついた。
(むしろ、具合は悪くない。この板挟み感がなんかイヤなんだよ! この人、絶対性格悪いよな。こうやって、エイラにバレないようにいびってくるし!)
どうにもこうにも、前途は多難なようだ。
そして、一番の難関は…鈍感な彼女(エイラ)だ。
鈍感な彼女に、アランは密かに肩を落とすしかなかった。
「ならよかった。早く行きましょ。この寒さ……私達は平気でしょうけど、アランにはきついのだと思うわ」
「え…」
エイラに気に掛けて貰えたのが、これほど嬉しく感じた瞬間は今かつてないだろう。
気を落としていた矢先の幸運に、思わず頬が赤らんでしまう。
「だってほら、手も、鼻の頭も、ほっぺただって真っ赤なんだもの」
「(え、そっち!?)」
そう言いながらマフラーを外し、一緒に手袋を差し出してきたエイラに、アランは思わずギョッと固まった。
「よッ…よせ、何をするんだっ、そんな事をしたら、君だって寒いじゃないかっ!」
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