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いま、エイラ達がいるのは大陸北部、アリエス地方北端の森。
初夏とはいえど、氷点下まで下がる気温の中で防寒具を外すなど、言語道断!
自殺行為にも等しいこの行為にアラン、彼が驚くのも無理からぬ事であった。
アランは首にかけられたマフラーを大慌てで解き、きちんとエイラの首に巻き直す。
きょとんと不思議そうにするエイラに、アランは内心で『むしろ、不思議なのはエイラの方だ』と語気荒く抗議した。
「まあ……フフ、優しい子ね、アラン。
でも本当に大丈夫なのよ。だって私は………だもの」
押し寄せる光の波がエイラの身体の輪郭を包み込む。
そしてそのまま、草原になめらかな金色の漣を描いてゆく。
エイラの紡いだその先は、風の中へと溶けていった。
「都に夜明けを、光を届けましょう。
私達にも、彼らにとっても…ね」
エイラの瞳が、遠く彼方に広がる都を真っすぐに射抜く。
冷たく湿った空気が流れる早朝の森を進むエイラ達一行は、足許より先の地面が途絶えた場所、崖の上から遥か下方に見える首都の街・ヴェラールを臨んでいた。
『漸く――ようやく見つけた。最後の、水龍の娘よ。其方で間違いないな』
【「っ!?」】
不意に、問い掛けでも決め付けでもない声が、真っ直ぐ的確にエイラを捉えた。
【エイラ、早く俺の後ろへ。……貴様っ、誰に向かって口を利いているか解っているのだろうな。
軽々しい言動は控えていただこうか。
この方は貴様のような下賤が気安く口を利いて赦される方ではないぞ】
言葉どおり突然に降って湧いたやや低めの女の声に、テュールは蜜色の瞳を鋭く細めながら、闖入者に牽制の意を示す殺気を叩き付ける。
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