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『それは、失礼をした……申し訳、ない』
時折の喘鳴を含んだ声。
どうやら、声の持ち主は急ぎやってきたのだと、テュールは敏感に判断した。
【アラン、エイラを護れ。傍を絶対に離れるなよ。何としてもだ】
「ぇ、わ…わかった!」
アランがエイラの傍に付いたのを見届けると、テュールは外套の下で剣の柄を握り締め、若干身体を低くして二人を背に庇った。
…だが、そんな時だった。
「待ってテュール」
緊迫した空気が、ガタガタン…と一拍、いや二拍はズレる。
【……は?】
テュールは、突拍子もなく転がった場違いな声に、思わずほんの一瞬だけ気が動転した。
理由は簡単だった。
奥に隠していたエイラが、引き止めるアランの手をやんわりと掻い潜って、前に出てきてしまっていたのである。
【エイラッ、な…なぜ出てきた、後ろを動くなと言った筈だろう!?】
「ああぁ…怒らないでってば。せっかく守ってくれたトコ悪いんだけど、ごめんなさいね二人とも。…大丈夫なの」
【はぁ!?】
「エイラ…」
テュールの怒りは尤もであるが、エイラも引かなかった。
「だから、ね…大丈夫なのよ。このヒトから敵意は感じられない」
エイラは突然の闖入者に対して一切動じた様子もなく、古木の幹に佇む人物を静かに見据え返して破顔した。
「ね、そうでしょう? 翼人[ウインダー]さん」
『さすが我らが至高[リヒター]です、なんと慈悲深い。
寛大なるご容赦、感謝の極みにございます』
ばさり…と、蒼穹を背に純白の羽根が舞い踊る。
「あ……っ!」
濃い空の蒼と、羽根の白の対比が何とも言えず美しくて、アランは勁い懐しさに駆られた。
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