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継母のセシリアと妹達がいない間、エイラは平和だが暇でもあった。
「はぁ……あの狼、なんだか忘れられない」
丸く鍋底の焦げ付き痕がある古びたテーブルに、エイラはぐったりと身体を投げ出す。
自分と同じ、透き通ったアイスブルーの瞳。
曇りのない、綺麗な目をしていた。
一方、現在は狼に変じて逃亡中のウィザードは、エイラの家の前に居た。
(ふんふん、いい匂い……菓子でも作っているのか?)
黒い鼻先がドアに向けられる。
彼女以外に誰か人間がいたら騒ぎになるだろうが、幸いながら気配は彼女以外にはないようだ。
ハンターなど呼ばれては困りものだが、まあその時はその時の策もある。
狼は、意を決してエイラの家のドアをノックした。
『カリカリ――――…コン、コンコンッ』
「はーい、どなた……あら? 貴方さっきの」
驚きもせず、ごく普通にドアを開けた彼女に狼は目を真ん丸にした。
「丁度これから夕飯なの、よかったら食べていかない?」
「…クゥン」
(なんで、普通にしていられる? …まさか、正体を気付かれた!?)
よしよし、とまるで犬のように頭を撫でられてしまい、黒狼はアイスブルーの瞳で傍らの少女を見つめる。
「ええ、解るわよ…旅人さん」
彼の心を呼んだかのように、エイラはにっこりと微笑った。
「これでも、ウィザードの娘だからね」
(ちなみに、あのウスラトンカチ共とは血は繋がっていない)
「そうか…」
舌足らずではない、はっきりとした滑舌で狼もにやりと笑う。
「貴方が…逃亡中のウィザードね?」
「参ったな…なぜそれを?」
ゆうらりと、陽炎のようにその姿が揺らぐ。
警戒に、抑えていた魔力が噴き上がったのだ。
ほぼ人型に形を整えた彼の髪が、黒から金色に彩りを取り戻した。
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