1話 逃亡者

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 継母のセシリアと妹達がいない間、エイラは平和だが暇でもあった。 「はぁ……あの狼、なんだか忘れられない」  丸く鍋底の焦げ付き痕がある古びたテーブルに、エイラはぐったりと身体を投げ出す。  自分と同じ、透き通ったアイスブルーの瞳。  曇りのない、綺麗な目をしていた。  一方、現在は狼に変じて逃亡中のウィザードは、エイラの家の前に居た。 (ふんふん、いい匂い……菓子でも作っているのか?)  黒い鼻先がドアに向けられる。  彼女以外に誰か人間がいたら騒ぎになるだろうが、幸いながら気配は彼女以外にはないようだ。  ハンターなど呼ばれては困りものだが、まあその時はその時の策もある。  狼は、意を決してエイラの家のドアをノックした。 『カリカリ――――…コン、コンコンッ』 「はーい、どなた……あら? 貴方さっきの」  驚きもせず、ごく普通にドアを開けた彼女に狼は目を真ん丸にした。 「丁度これから夕飯なの、よかったら食べていかない?」 「…クゥン」 (なんで、普通にしていられる? …まさか、正体を気付かれた!?)  よしよし、とまるで犬のように頭を撫でられてしまい、黒狼はアイスブルーの瞳で傍らの少女を見つめる。 「ええ、解るわよ…旅人さん」  彼の心を呼んだかのように、エイラはにっこりと微笑った。 「これでも、ウィザードの娘だからね」 (ちなみに、あのウスラトンカチ共とは血は繋がっていない) 「そうか…」  舌足らずではない、はっきりとした滑舌で狼もにやりと笑う。 「貴方が…逃亡中のウィザードね?」 「参ったな…なぜそれを?」  ゆうらりと、陽炎のようにその姿が揺らぐ。  警戒に、抑えていた魔力が噴き上がったのだ。  ほぼ人型に形を整えた彼の髪が、黒から金色に彩りを取り戻した。
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