1話 逃亡者

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「魔力を持つ者なら、知らない話じゃないわ。時を紡ぐ歯車・ラティアを盗んだウィザード…アラン・スピネル」 「『アラン・スピネル』か……その名はもう捨てた、今はただのお尋ね者さ。それより、君の名前は? 聞いてなかったけど」  アランは、ふるりと首を振ると今度は野兎に姿を変えた。 「そっか、教えてなかったわね。あたしはエイラ。エイラ・カーネリアン…長いからエイラでいいよ」 「ああ」 「どうして動物なの?」 「ムダだろうけど……できるなら人型では居たくないんだ」 「ウサギだなんて。かわいい」  ひょい、と抱きあげられ、宙ぶらりんになったアランは反射的に暴れる。 「お、おい…っ、離せ」  ふこふこと鼻面を蠢かせて怒るのだが、可愛らしさが手伝って、全く以て説得力がない。 「ねえ、アラン…あたしも一緒に連れてってくれない?」 「はあ!?」  凄みに欠けているのを考えてか、アランは人型に戻って肩を怒らせる。 「冗談!!」  エイラと寸分違わぬ場所で、淡い色合いの金髪がふわりと揺れた。  アランは、彼女のとんでもない申し出に憤懣露わに肩を怒らせた。  逃亡している自分の身一つでも難儀なのだ、それに同行者が増えるなんて有り得ない。  冗談じゃない。  まったく以て、冗談じゃない。 「まあ、そう怒らずに…貴方一人の魔力じゃ、すぐに捕まってしまうけど…あたしと一緒なら巧く逃げられるわ」 「…なんだと?」  苛つきながら振り向いたアランは、エイラのアイスブルーの瞳に射抜かれた。
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