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「魔力を持つ者なら、知らない話じゃないわ。時を紡ぐ歯車・ラティアを盗んだウィザード…アラン・スピネル」
「『アラン・スピネル』か……その名はもう捨てた、今はただのお尋ね者さ。それより、君の名前は? 聞いてなかったけど」
アランは、ふるりと首を振ると今度は野兎に姿を変えた。
「そっか、教えてなかったわね。あたしはエイラ。エイラ・カーネリアン…長いからエイラでいいよ」
「ああ」
「どうして動物なの?」
「ムダだろうけど……できるなら人型では居たくないんだ」
「ウサギだなんて。かわいい」
ひょい、と抱きあげられ、宙ぶらりんになったアランは反射的に暴れる。
「お、おい…っ、離せ」
ふこふこと鼻面を蠢かせて怒るのだが、可愛らしさが手伝って、全く以て説得力がない。
「ねえ、アラン…あたしも一緒に連れてってくれない?」
「はあ!?」
凄みに欠けているのを考えてか、アランは人型に戻って肩を怒らせる。
「冗談!!」
エイラと寸分違わぬ場所で、淡い色合いの金髪がふわりと揺れた。
アランは、彼女のとんでもない申し出に憤懣露わに肩を怒らせた。
逃亡している自分の身一つでも難儀なのだ、それに同行者が増えるなんて有り得ない。
冗談じゃない。
まったく以て、冗談じゃない。
「まあ、そう怒らずに…貴方一人の魔力じゃ、すぐに捕まってしまうけど…あたしと一緒なら巧く逃げられるわ」
「…なんだと?」
苛つきながら振り向いたアランは、エイラのアイスブルーの瞳に射抜かれた。
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