1話 逃亡者

7/8
前へ
/35ページ
次へ
 顔は笑っている。  だがその瞳は、笑っていない。 「侮られちゃ困るわね……」  エイラのブロンドが、スルスルと蔦のように伸びて床を這う。  それと同じくして、濃い魔力が発せられた。 「……っ、君は、一体…」  押し潰されそうな威圧感。  圧倒感。 「……長きを生くるものとでも言っておきましょ。いずれ分かるわ」  アランは肌が爆ぜてしまいそうな魔力の中で一瞬、死を覚悟した。 (…気圧される…) 「さ、早く夕飯済ませましょ? お腹すいたわ」  アランは呆気にとられる。  エイラが笑った次には、あの焦がすような威圧感が、さっぱりと消え失せていたのだ。 「どうしたの? 冷めない内にどうぞ」 「あ、ああ……いただきます」  シチューと白パンの簡単な夕食を済ませた後、アランはやっと人心地がついた。 「ここを出ていく『きっかけ』が必要ねぇ……なにかないかしら」  呟いたエイラの方を、アランはゆっくりと振り向く。 「出ていきたい理由、訊いてもいいか?」 「いい加減疲れたのよ、凡庸な人間のフリは……耐えるのもバカらしいし」  エイラが怒る度に、濃い魔力がまるでアイロンの蒸気のように噴き上がる。 (でも、ダメねぇ…アイツらのことだ、追手を向けられるかも) 「ンな奴ら、青虫にでも変えてやればいいんだ!」  継母と腹違いの妹達の事の顛末を聞いたアランは訳を知り苛々と歯噛みする。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加