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八年前に弟の賢司が結婚して、今は二人の男の子の父親だと言うこと。遥香は中学の時からの夢だった職業に就き、来年には結婚予定という事も話してくれた。
話が切れひかりはトイレへ。母はお茶をいれ替えながら「それでね……」と話を続けている。
香澄はキッチンへ行きカウンター越しに母と向かい合った。
「……お母さん。あの時、勝手なことしてごめんなさい」
香澄の声に母が顔をあげた。その顔は穏やかで、分かっているように頷くと茶器を洗う手を止めた。
「あの時、頭に血が上っちゃって初めてあなたに手をあげてしまった。母さんも謝らなくっちゃ。ごめん」
「ううん。叩かれるようなことしたのはあたしだから……。あのねひかりの……」
その時、ひかりが戻ってきた。
ひかりも年頃だ。家を出た理由が当時お腹にいた自分だと知ったらどう思うか……。
母は何事もなかったかのように茶器を手にキッチンから出ると、香澄を促しリビングに戻った。
そしてまた他愛のない話をはじめた。
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