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「やつらには、風が見えるんだ」
私の傍(かたわ)らに座っていた老人が、ポツリとそう漏(も)らす。
その声につられ、私も首を反(そ)らし、天を仰(あお)ぎ見る。
空を見上げる事など、終(つい)ぞなくなっていた自分に気付く。
「ピーヒョロロ~」
初秋の頃だったか?
「つがい」なのか?
そこには、淡い午後の陽射しの中、二羽のトンビが、円を描いて舞っていた。
「ピーヒョロロ~」
確かにそうだった。
私の父ほどの年齢。その老人が言う通り、羽ばたきもせず、その大きな翼を広げただけで、風をつかみ、高空の高みにまで舞い上がる。
「ピーヒョロロ~」
『どこかで見たような光景だ』
でもその時はまだ、私の記憶には靄(もや)がかかっていた。
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