1 コロナの朝

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1 コロナの朝 じい様の朝は早い、じい様に合わせてコロナも朝4時には叩き起こされる じい様に急かされて着替えて水筒だけ持って顔も洗わずに外へ走り出す 朝の湖は白く淡く靄の中に溶け込み、湿気が被服をじっとりと湿らせ、 冷たい湖の水門を開き、村に水を送る事が じい様の代々受け継いできた仕事、いずれはコロナが継ぐ仕事 じい様は湖をぐるりと囲う石畳を走る、 「俺が水を放たないと村の連中は朝を迎えられない」 から早く水門を開ける為に走るのだそうだ コロナも足には自信があったがじい様を追い越したことはまだない 一つ目の水門、じい様がレバーを上げ、 力を入れて一回転…二回転…白銅で出来た重い大きな 取っ手が回る度、水門が開き始め湖から放たれた水が ちょろちょろから勢いを増して村へと注がれる じい様が三回ほど回した時点でコロナが交代、水門が開ききるまで回し続ける 水門は全部で15、じい様は二つ目の水門に走り付き、 キリキリ・・・と取っ手が回る音が湖に響く やれやれ、とコロナは水筒の水を口に含み、うがいをした 年寄りはまったくせっかちである、コロナは水筒の水を手に注ぎ、顔を洗った 開ききった水門から滝のように水が流れ出し遠く連なる山山の間から漏れ出た朝日を反射させて 水流がキラキラと輝きだす この水を受けて顔を洗い、歯を磨き、朝食の支度洗濯と村の一日が始まる 重い水門を開き終わったコロナの体は汗ばんでいた 出がけは肌寒かったものが、15の水門を開き終わる事には汗だくである 「子供の力では」水門を開く最初の一回転が重すぎて開けない 「しかし、お前の父はお前の歳の頃には一人で15の水門を開いて回った」 とじい様は言う 物心つかない内に水害で死んだ父によく比べられる、 じい様だけでなくばあ様にも母にも家を訪れる人にも 比べられるのは好きではなかった、 だが「似ている」いわれるのは不思議にうれしい物だった 「さて」これ以上ぼんやりしていると 15の水門を開き終わって 一回転してきたじい様にどやされる image=459525221.jpg
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