来た。僕のお盆

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さて、やはりこの時期になると赤とんぼタクシーも居なくなって、何とか自力で里帰り。天国のいろんなところへ行けるゲートをいくつか経由してやっと着いた、僕の故郷。ここは世間より少し早く紅葉が始まる。町の後ろにたたずむ大きな山はもう半分ほど赤く染まっている。 「あの紅葉、もう染まってるかな…」 一番の目的を口にして、夕暮れに染まったふるさとを懐かしみながら歩き、とりあえず家路に着く。 …一年ぶりだけど、やっぱりここは変わらないなぁ。午後六時には大体シャッターが閉まる商店街に、緑が多い堤防を散歩する爺さんやばぁさんばかり。 紅葉の名所と言えど、まだまだシーズン真っ盛りではないここはただのド田舎。若い人なんてみんな顔見知りに慣れるくらい少ない。そんなド田舎の中に一軒だけある大豪邸。そこに向かって僕は歩みを進める。 表札には紅葉旅館「木の葉」ここが僕の実家。自分で言うのも何だけど…雑誌にも良く載る実力派の旅館だ。 旅館の扉をするりと抜けて誰にも聞こえないと分かっていながら僕は玄関から叫ぶ。 「ただいまー!」 もちろん返事はない。ふぅ、とため息をついたとき、 ヂリリリリリリリリリン! 今の時代かなり珍しい黒電話が鳴響く。その音に反応した一人の女性が奥ののれんから顔を出し、電話に出る。彼女が僕の娘である茜だ。 対応を聞く限り、紅葉の時期の予約のようだ。 去年と変わらない家の様子に安心し、足跡はつかないが靴を脱いで家の床を踏みしめる。 ああ、やっぱり楽園の天国より、家が一番居心地がいい。
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