3人が本棚に入れています
本棚に追加
おなかの大きい女将、茜と僕の妻が二人並んで僕の仏壇に手を合わせている。晩御飯の前にいつもこうしているらしい。
しかし、当の本人の僕はその後ろでテレビ前にあるソファに座っている。もちろんソファに座っている時のしわがよったりはしないが、実家と言う雰囲気が僕をゆったりさせる。
家に居られるのは明日まで。しかも明日の昼には目的の場所に行かなくてはならない。つまり、家でゆっくり出来るのは今日まで。
「さぁて、今日は遥はいつ帰ってくるかな~。」
娘は旦那の帰る時間を気にしながら一人分の夕食にラップをかけて妻と夕食をとる。日常的な会話をしていると、ふと、妻が紅葉の話をしだした。そこから旅館の計画などもはなしだし、脱線し始めて、今年はちゃんと紅葉狩りに行こうと話していた。
「あ、そういえば、お父さんさ、裏山の橋の傍にある紅葉の木大好きだったよね。」
ふと娘の目が寂しそうに煌く。妻も少しうつむいたが、直ぐに顔を上げて楽しそうに笑う。
「そうそう、『僕はこの紅葉が世界一好きだ。だって、こんなに赤い葉をつける紅葉を見たことがない!』なんて言ってたわねぇ。」
ふふふ、と二人は笑った。
妻が僕の真似をしながら言っていたがまったく似てない。娘は「似てる~」と爆笑しているが、断じて似てない。
ふん、と届かない声を出し、ソファに寝そべり、テレビを見る。
今年はこんな芸人がはやっているのか。そんなことを勉強しつつ、夜は更けていき、あっという間に朝になってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!