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「おい、久崎ぃ……?」
しゃがんで久崎と視線を合わせると、久崎はハッとして意識を正常にした。
「……! あ、あ……」
しかし戻る記憶に混乱しているのか、表情が強張る。
「ああああ!」
尻餅をついた状態でいくらか後退をすると、慌てたように立ち上がって一目散に駆け出し、町の闇に消えていった。
「…………」
「ミコト?」
「俺、なんで久崎みたいにならないんだろうな?」
久崎は、初めて見た浮世外に恐怖し、混乱し、あんなふうになった。
それに対して俺は、[正義ぶれるほどに]冷静だった。
恐怖はしたが、混乱していなければ、狂ってもない。
[死を感じられるほどに]冷静だった。
それはやはり、俺にはずっと、ずっとずっとずっと、見えていたから。
久崎には、ずっとずっとずっと、見えなかったから。
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