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失恋少女との劇的でも最高でも無い、普通の邂逅から一ヶ月少々。
「はい、これ!」
出会い頭、玲ちゃんはカラフルなリボンで装飾された箱を俺に差し出した。
「べ、別に草氏さんのために作ったんじゃないんだからねっ!?ただ作り過ぎちゃっただけなんだからっ!」
なるほど。そういうことらしい。開いてみると中からハート型のチョコレートが姿を現した。
中央にはでかでかと『義理』とまで書いてある。
パキッ……と一口。
瞬間、仄かに拡がるウイスキーの香り。甘さを抑え、渋味を効かせたビターテイスト……
ふむ、『義理』の部分はホワイトチョコで出来ているのか。バランスが非常に良い。うん、美味美味。
「なんとか言ったらどうなんです?」
「ん?美味いです」
「……怪しい」
「これは世辞では無く、素直な感想。結構こだわっているんだな」
これは本当に、以前出版社の方で戴いた本場ベルギーのチョコレートよりも俺好みの味だった。
「嘘です!だってこれ、失敗作なんですよ?!」
「……じゃあこの苦いのは?」
「焦げです!」
「……」
「あれ、やけに静かですね?いつもの元気がありませんよー?」
「いや、元気は満タンなんだ。怒る気力が無いってよりも、ただ――呆れたよ」
それも自分に。俺の舌は庶民的なレベルを通り越して、もはや救いようがないらしい。
「で、いきなり呼び出したと思えばなんでチョコなんだ?」
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