先人

8/8
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/922ページ
「あいにくと、俺はアンタの期待に応えるつもりは無いよ。 ただ、アンタのありがたいご高説だけは素直に受け取っておくよ。 それなりに参考になった。 ありがとさん」 「深崎くん! あなた、目上の相手に対しての礼儀がなってないんじゃないの?」 そのまま踵を返したヤイバを、ジェイディが睨みつける。 その圧倒的な威圧感から無視できるような問題では無かったが、こちらとて月島という対峙するだけで胸を圧迫されるような規格外の相手の相手を何度もしているのだ、それと比べれば十二分にマシの範疇と云える。 「よしたまえジェイディ。 目上の者だから敬えなどと、私はそんな事は気にしてはおらんよ。 人間、本当に敬いたい程の相手を前にしたら自然と敬う態度に出るものさ。 それを目上ならば無条件で敬えなど、私は若者に教えたくは無いのだよ」 もっとも、最低限の礼節を弁えた上での話だがね、と付け加えてジェイディを宥める。 目上というだけで敬うな、などと大人の威厳を自ら否定するようなものだ。 それをわざわざ言うなど、とても目上という条件を差し引いても自分は敬われて当たり前と思っているような自信家としか思えない。 いや、彼の場合は本当に敬われるに値しないと思われたなら、それも是としている。 どの道、自信家に変わりないが、その器の大きさが伺えるだろう。 「…隊長がそう仰るのでしたら――」 月島に従順なジェイディはまたも意見を撤回し、彼に従うのみだ。 あの堅物を従える辺り、本当に月島は他人に敬われて然るべき人格の持ち主なのだなと判断して、ヤイバはその場を後にした。
/922ページ

最初のコメントを投稿しよう!