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深崎ヤイバが立っていたマンションの一室の前。
此処に彼女は居る。
「…俺だ。上がるぜ」
合い鍵は持っているので、許可を取る事なく上がり込む。
というか、此処の家主からも半ば不法侵入に近い形で自分の部屋に上がり込まれているので、そういうものは気にならないのかも知れない。
扉を開けて玄関に入ると、中は明かり1つ点いてない暗闇だった。
これだけなら誰でも留守だと思い込むだろうが、奥の部屋から僅かな明かりが漏れていた。
なので留守でない事を察すると、スマートフォンの明かりで中を照らし、光源を得る。
そうして照らされた部屋は…まあ、あれだ、あまり綺麗では無かった。
百円ショップで買ってきたような小物や、ゴミ、その他もろものが無秩序に散らかっている。
家主のどうしようもなく、乱れきった私生活が手に取るように分かるようだ。
「…ったく、少しは掃除くらいしろよ」
適当に靴を脱いで上がり込む。
当然ながら、こうまで散らかっていると、ハッキリ言って臭い。何かすっぱいような鼻を突く臭いがする。
こういう場所に住んでいる人間は、そういう臭いが気にならなくなるというが、おそらくその類だろう。
後で掃除してやらなきゃなと思いながら、彼女がいつも居る居間に、勝手知ったるといった態度で踏み込んでいく。
「…ん、ヤイバかぁ?」
明かり1つ付けずに、真っ暗な部屋でPCと向き合っていたのは、ヤイバの幼馴染の柊サツキだった。
PCのブルーライトに照らされた顔は、以前見た時よりさらにやつれていた。
おそらく、マトモな食事の1つもしていないのだろう。
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