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静かな夜だった。
弱い風に吹かれた木々の間から、淡い月の光が時折射し込んだ。
番兵は無線機を取り、「異常無し」の定時報告をした。
もっとも、この施設に異常があった事など、今までに一度としてなかった。
彼はさして広い世界を生きてきたわけではなかったが、それでもここ程堅牢に守られた場所は無いように思われた。
敷地の外柵には鉄条網が張られ、絶えず武装した動哨が巡察している。その中には更に、大柄で屈強な彼の背丈の三倍はあろうかというコンクリート塀。この塀の上は施設の屋上から三百六十度回転式の三脚架に据えた機関銃が各方角に十六丁指向されている。
施設の外周を守備するだけの為に、実に五個中隊が配属され、警備・待機・訓練・予備・休暇をそれぞれ一個中隊ごと交代で勤務する。配属される隊員も各地の部隊から選び抜かれたエキスパートで、配属にあたっては苛烈な訓練を経る事になる。
この番兵もまた、精到に訓練された優秀なエキスパートの一人だった。
彼は『絶対不落』を謳われたこの施設の警備にあたっても、一切の油断を持ち込まなかった。それが彼の誇りだった。
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