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番兵は、雨天だろうが夜間だろうが、必要さえあれば彼の警戒区域に飛来する小鳥の数、その接近方向、時刻、離脱の経路まで詳細に報告する事が出来た。もっとも、そういう必要が生じた事は、今までに一度もなかったが。
そんな彼が、静かな夜に、警戒区域の異常の有無を一縷の隙もなく点検し、その上で「異常無し」の結論を報告した。
異常は無かったのだ。次の瞬間、その番兵の脊髄が唐突に捻切られた事を除けば。
「敵は一体どこから現れたのか」とか、「自分の監視に穴は無かったはずだ」とか、そんな事を考える間も無く番兵は死んだ。そして当然、五日に一度の彼の帰宅を待ちわびている、睫の長い彼の妻や、先月二歳になった息子の事も。
第一級思想犯を収容する『特別隔離収容所』の裏門に、番兵の死骸はくずおれた。
監視を容易にし、かつ敵からの狙撃を防ぐため、番兵の位置には灯りと呼べるものが無かった。強いて言えば、月齢の低い、淡く弱々しい月明かりが木々の隙間から射し込んでいただけだ。
番兵の立っていた裏門には今、その首を捻り殺した男が立っている。男はほんの一瞬、番兵の死骸を見下ろした。
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