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この独房の前を左右に延びる廊下にも、もちろん蝋燭一つの灯りも無い。
看守はここに初めて配属された時、本当の闇というものを知った。これこそが本当の暗黒なのだ。月も星も無い、あらゆる生命の輝きから隔絶された本当の暗黒…………。
にもかかわらず、彼の頬には、やはり視線の感触がある。
見られている…………。
暗闇の中を音をたてずに歩くため、看守の靴の裏は特殊な素材で作られていたし、そのための訓練を受けていた。
見える筈がない。私の存在が、この男の眼に止まる筈はないのだ。
「不思議かね…………」
看守はほとんど飛び上がらんばかりに驚いて、声のする方向へ顔を向けた。
しかしそこにも、果ての知れない闇が広がっているだけだった。
「理由と結果が噛み合わないようだな。それはそうだろう。君は結果を否定する理由ばかりを考えている。結果はもう、現実の世界に産み落とされているのにも関わらず」
光の入らないこの地下十三階は、外衣を重ねて着込んでも歯の根が合わぬほど寒かったが、看守の背中は下着が張り付くほどの汗をかいていた。
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