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冷えて堅くなったパンを噛むと、子供の頃を思い出す。
昔あの孤児院にいた連中は、今頃どうしているだろう。もっとも、連中のほとんどがそこいらで野垂れ死んでいるだろうことは想像に難くないし、よしんば生きていたにせよ、どうせロクな生き方は出来ないだろう。せいぜい立派なクズになるだけだ。
拳銃のひんやりとした銃身や、壁紙も張られていないコンクリート造りの部屋は、クロワッサンマンがあの孤児院の日々の延長線上に生きていることを否応なく思い知らせた。
渇いた口の中に貼りつくパンを、スコッチで流し込む。
クロワッサンマンは、渇いたフランスパンが一本と一箱のチーズがあれば、一週間は生きていけることを知っていた。もちろん、幾ばくかの満足を得ようと思えばそこにある程度の副菜を加えもするだろうが、生憎そういう状況でもなさそうだった。
クロワッサンマンの元に次の指令が届いたのは、三日前の暮れ方の事だ。
◇◇◇
地下クラブ『G・D』の一件の事後処理も一段落して、受け取った報酬でスコッチを購(もと)めに街へ出た彼を呼び止めたのは、酒屋の向かいに荷車を曳く花売りの娘だった。
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