その細くみすぼらしい命を繋いでいたいなら

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 娘は栄養を欠いた血色の悪い顔を変に歪めて(それが彼女の作り笑いなのだとクロワッサンマンは後になって気付いた)、これもまた娘の肌のように潤いのない半ば萎れかけた、そのくせ両手に抱えるほど大きな花束を差し出した。 「あなたに渡すようにと……。『カイゼル髭の男』と仰る紳士から。その方は髭を生やしておられませんでしたけれど……」 「気にしなくていい」  とだけ言ってクロワッサンマンは花束を受け取り、代わりにチップを手渡した。娘はそのチップの額を素早く確認すると、また妙な風に顔を歪めて深々と礼をした。 “気にしなくていい”  その言葉は暗に「気にしてはいけない」を指している。首を突っ込むな。その細くみすぼらしい命を、少しでも長く繋いでいたいなら。 『カイゼル髭の男』といえば、思い当たるのは一人しかいない。国家治安維持局長、ライ麦・E・ラウゲンロール侯爵。  彼のカイゼル髭は、他のどんなにふんぞり返った将校のものよりも立派な、美しいカイゼル髭だった。そしてラウゲンロール侯爵は、誰よりもそのカイゼル髭が似合っていた。  侯爵のカイゼル髭は、クロワッサンマンにとって富と名声と、それを裏付ける才覚との象徴だった。
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