その細くみすぼらしい命を繋いでいたいなら

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 侯爵のカイゼル髭を意識の隅に追いやろうと苦心しながら舌打ちしたクロワッサンマンに、娘は半歩飛び退いて身を竦めた。  娘の目にはありありと恐怖の色が浮かんでいたが、その中には微かな憐憫の色合いも含まれているように感じた。薄汚く痩せた狂犬を見るのと同種の感情を、クロワッサンマンは、娘の、光のない瞳の中に見た。  クロワッサンマンは何も言わず、娘に背を向けた。  花束の中には案の定、飾り気のない小さな封筒が添えられていた。手のひらに軽く収まるくらいのその手紙は、事ある毎に『カイゼル髭の男』の使いから、その時々の手段を通してクロワッサンマンに贈られたものだった。  その手紙を彼に渡すのは、時には街の子供だったり、路地裏の浮浪者だったり、娼婦だったりした。そしてその中の何人かは死んだ。たかが紙きれ一枚を、彼に渡すために死んだのだ。  クロワッサンマンは手紙を抜き出して用済みになった花束を、ちょうど通りかかった歩道に面した空き地の隅に投げ捨てようとして思いとどまった。  彼は常に自分が監視されている事を前提に行動しなければならなかった。花束を捨てれば、用は手紙にしか無かったものと知れる。恐らく娘も死ぬだろう。
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