その細くみすぼらしい命を繋いでいたいなら

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 妙だ……、と思った。  人通りの多い往来で手紙を渡すにはそれなりの偽装が必要だとしても、この花束は目立ちすぎる。手のひら大の手紙を隠すだけならば、花束は花束でも、もっと小さなもので事足りたはずだ。  何かある。それは間違いない。問題はその先だ。  選択肢は大きく二つ。この花束をこのまま持ち歩くか、捨てるか。  クロワッサンマンは立ち止まることなく歩き続けながら、花束を脇に抱え封筒を開いた。恐らくここには手掛かりなど記されてはいない。しかし、それでも何もないよりはましだろう。  封筒に入っていた質の悪いざら紙の切れ端には、いつも通りタイプライターで打ち込まれた無機質な数列が並んでいるだけだった。 『12 13 36 2 29』  これに彼の識別番号から、上五桁『51423』を順次足していく。  ウェッジウッド・ストリート17番地、14時40分、クロワッサンマンはそこまでを素早く解析した。ウェッジウッド・ストリート17番地といえば、ウェッジウッド市民劇場の所在地だ。残りの数字は座席番号だろう。  判断の速さと、その判断に命を預ける覚悟が彼の命を繋いでいた。迷えば死ぬ。しかし、彼はその手には大きすぎる花束の処遇を迷っていた。
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