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クロワッサンマンは革ジャケットのポケットから煙草を取り出しマッチを擦った。
マッチ箱には黒地に尖った文字で会員制クラブのロゴが入っている。
『G・D』
「墓掘り人(Grave Digger)」を略している。その店が地下に潜っていることを揶揄して。
安いブラック・ジョークだ。
一丁前にアウトローを気取ってやがる、と彼は思った。
『会員制クラブ』と言っても、金や信用で属する種類のものではない。その会員権を手に入れる条件は、簡単に言えば「筋金入りの反国主義者である」というもので、その意味するところは「彼の仕事の対象である」ということだった。
最初にこの仕事を受けた時、妙な違和感があった。
彼の仕事の対象――いわゆる国家の反乱分子――は、高い教育を受けた政治的思想家で、その為当然高い知能を持ち、ほとんどの場合そのことを誇りにしていた。そして何より、自分達の正義を神よりも深く信仰していた。
従って、素人目に見てもチンピラの溜まり場と分かるような地下のクラブを、そうした反国主義者達が(少なくとも本当に何らかの反国的モーションを起こそうとする連中が)秘密の会合に使うということはまずない。
少なくともクロワッサンマンの知る限りでは、今までで一度もないと言ってよかった。
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