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「別にどうもしない。読みたきゃ読めばいい。そいつが本当に未来を見たとしても、その未来を変える力がなきゃ意味がない。あらかじめ知っていたか知らなかったかの違いだけだ。逆にその未来を変えることが出来たら、そいつは未来を見たことにはならない。ただイカレた妄言を吐いただけだ」
男は小さな声で唸った。
「ところがその妄言を信じ込んで、あろうことか国家をひっくり返そうとする連中が出て来た。それも、今までの“赤い連中”が可愛く思えるような、タチの悪い奴らだ」
厄介な仕事になる、とクロワッサンマンは直感した。後ろの男のようなメッセンジャーは、不必要な人との接触を極端に嫌う。任務の概略を簡単に説明して対象の顔写真を渡したら、早々に立ち去るのが彼らの流儀だ。
その彼らがこういう回りくどいアプローチをする時は、決まって面倒事を持ち込んでくる。
「その花束は、手放さなかったようだな。何かあると思ったかね」
男が言った。
「ただの勘だ」
「そうか……。それは閣下からのメッセージだ」
『閣下』というのは、カイゼル髭のラウゲンロール侯爵を指している。
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