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男は続けた。
「迷ったはずだ。その花束をどう扱うべきか。
その花束は、監視者が君を識別するための目標かもしれない。なら、すぐにでも捨てた方がいい。いやしかし、監視者はその花束を捨てたことを根拠に君を識別するかもしれない。ならば意地でも捨てるわけにはいかない。いや待て、その花束には何か仕掛けがあるのかも。いやいや、その花束がメッセンジャーと自分を繋ぐチケットだとしたらどうする。いや、そもそも監視者なんて者が本当にいるのか、メッセンジャーは本当に味方なのか…………。
思慮深い人間でなければ生きていけない世界だ。だが、君が思慮深い人間であればあるほど、答えは深い沼の中にゆっくりと沈むように遠ざかっていく。そして沼の中に答えを探している間に、死の影はもう、君のすぐ隣までにじり寄っている。
君がこれから巻き込まれていくのは、そういう闘いだ」
クロワッサンマンは、スクリーンに向けた目が、何物をも捉えていないことに気付いた。白と黒とが目まぐるしく互いを侵食しあっている風景は、彼にその意味を伝えはしなかった。
「後ろを見たまえ。ゆっくりと。ただなんとなくこの上映の客入りが気になったという風に」
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