クソッタレの世界に唾を吐き棄てるように

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 そういう直感も、彼が生き残るために必要な能力だった。  彼の最初の記憶は、孤児院の独房から始まる。なぜ孤児院に独房があったのかは分からない。だがそれは紛れもなく独房だった。  コンクリートの壁と床に囲まれたその独房は、夏の盛りでも歯の根が合わぬ程寒かった。  寒さの為に眠りはいつも浅く、自分が眠っているのか目覚めているのか、その区別が曖昧だった。長い夜を越して独房から出されると、そこは暴力の支配する世界だった。  そこでの生活にとって、《幼い》という事は致命的な欠陥だった。  体の大きい者は小さい者を、徹底的に痛めつけた。恐怖を植え付けることによって、反乱を防止するためだ。  それはまともな教育というものを与えられなかった彼等が、経験的に学び取ったことの一つだった。  そういう環境が彼の直感を育てたのか、それとも直感がその環境で彼を生き延びさせたのかは分からない。ただ、彼は実際的な方法で生き延びる術を学び取りながら、その冷たい地獄の中を生きた。  彼は自分の年齢というものを知らなかった(それは彼の育った孤児院では別段珍しいことではなかった)。が、彼が自分をレイプしようとした孤児院の職員を作業用のナイフで刺して孤児院を抜け出す三日程前、ちょうど彼と同じくらいの背丈をした少年が、自分は十歳だと言った。
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