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1章~森での出会い
~プロローグ~
走る。どこまでも、どこまでも。
たくさんの緑が生い茂る中を、少年は、ただひたすらに走り続ける。
行く当ては、ない。
人気のないところへと目指した結果、森の中へと入ったところまではよかった。
しかしそれから先は、追ってから逃げるべく、ただ闇雲に走り続けている。
(逃げなければ……!!)
その思いだけが、少年を走らせていた。
「いたぞ!」
「捕まえろ!!」
背後から無数の足音が、気配が迫ってくるのを感じる。
鎧や剣や槍などといった、金属の鳴る耳障りな音がどんどん大きくなる。
恐怖という名の重圧に押しつぶされそうになりながらも少年は走り続ける。
立ち止まるわけにはいかない、ここで捕まるわけにはいかないのだ。
金色の髪を振り乱して、転んだり、木々に切り裂かれたりして、傷だらけになりながらも、
走ることは止めない。
ひたすらに、無我夢中で足を動かす。
もっと速く、急いで、振り切らないと……
けれども、そんな彼の思いとは反対に、身体は言うことを聞いてはくれない。
事実もう、体力・気力とともに限界が近かった。
足が重い、体が鉛のようだ。
肺は息を吸うたびに、焼けるような痛みを刻みつける。
でも、走るのを止めるわけにはいかない。
足を止めるわけにはいかないのだ。
こんなところで、連れ戻されては、逃げ出した意味がない。
ここまで走ってきた意味がない。
大切な人々を助けられない。
とにかく、自分は逃げなければならない。
何がなんでも。
そして、見つけなければ―――――
「――――ッ!?」
飛び出ていた、木の根っこに足をとられ、少年は激しく転倒した。
草の斜面を泥だらけになって転がり落ちる。
抵抗する術もなく転がっていく。
草が、枝が、根が、少年の肌に浅い傷跡を刻みこむ。
転がる勢いは止まらない。
それが永遠に続くかと思われたとき。
突如、少年の身体が宙に放り出された。
そう。
そこに、ある筈の地面がなかった。
崖下に広がる、さらなる巨大な森。
伸ばした手は、虚しく宙をかく。
開けた視界、遠くなる青い空。
少年は、広大な緑の森の中へ真っ逆さまに落ちた。
見つけなければ――――――『紅瞳の大賢者』を―――――
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