序章

2/7
279人が本棚に入れています
本棚に追加
/428ページ
ここT大学病院は古い。そして、狭い。 その上十一月から始まった改修工事で東病棟が閉鎖。東西の中央にあるナースステーションのやや西寄りに工事用の幕が張られ、スタッフは全員西病棟に寄せられた。 人で溢れるナースステーションに俺みたいな研修医の居場所はない。 しかも人が合わさるのに、パソコンの台数はそのままとか足りる訳がない。下っ端の俺が諸先輩方や看護師達を追い払ってパソコンを使える訳もなく、当然仕事の効率は低下する一方。 老朽化を補強するなら、いっそのこと建て替えろ。 工事のお陰で不便極まりないと思っていた。一月からの内科研修で再び六階病棟に来るまでは。 前回は七月。同じ内科研修のローテートで東病棟の糖尿病・代謝内科に来た。その初日、ナースステーションで西側に佐野を見付けた。 色白で黒目がちな大きな目。童顔で背の低い華奢な女。特別美人でも可愛い訳でもない。でもずっと話したいと思っていた。……俺の進路に影響を与えた、女。 とはいえ、東西が違えば接点はない。声を掛けることもなく研修は終了。 今回の循環器内科も東病棟。話すことはないと思っていた。 それが工事の都合で病棟は混合。その上師長が二月から一時的に一、二年目の看護師だけ東西入れ換えることにしたらしい。 一年目の佐野は当然その対象。しかも循環器内科の担当になった。 まさに、工事様々。
/428ページ

最初のコメントを投稿しよう!