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何よりラッキーだったのは東病棟の佐野の同期、大田が俺の悪友笹岡と付き合っていたこと。彼女と顔馴染みだったこともあり、病棟で佐野も交えて話せるようになった。
話してみると佐野が純粋で思いやりのある人柄なのは直ぐに分かった。そしてただ優しいだけじゃない、俺が惹かれた自分の『夢』をブレずに持ち続ける芯の強さも持ち合わせていることも。
女は可愛い。甘くて狡くて、その柔らかな身体は心地良い。愛でるべき愛玩対象ではあっても、特別な感情を抱いたことはない。
でも、佐野は……知れば知るほど、惹かれていく。もっと知りたい、近付きたい。そう思う。
初めての感情に自分でも正直戸惑っていた。
夜の七時を回り、さっきまで辺りを占拠していた日勤の看護師達がようやく帰った。佐野の姿ももちろんない。
まぁ仕事終わったら帰るよな。
さっきパソコンの空きを確認に来たら、彼女の定位置カウンターの内側から顔を上げて笑顔で挨拶された。
来客者にはクラークが対応してるのだが、佐野は敢えてそこのパソコンを使っているらしい。行けば冬香にすぐ会える。それは嬉しい反面、無駄に病棟に立ち寄りたくなって少し困る。
食事に誘おうにも隣のクラークが邪魔だし、仮にいない時でもあそこじゃ目立つ。
どうやって声を描けようか……
など仕事とは無関係のことを考えつつも手は動く。
明日の指示のチェックは先に済ませた。あとはカルテを入力すれば今日の仕事は終わる。
中断していたカルテを確認しながら入力していると後ろから声が掛かった。
「三上先生、今お時間良いですか?」
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