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振り返った先にいたのは真面目を装い、澄まし顔の大田。
畏まった口調に誰かと思った。
「何でしょう?」
対する俺も外向けの口調で応えながらパソコンへ向き直る。
あと二人でカルテは終わり。早く済ませて帰りたい。
「ここではちょっと……」
珍しく歯切れの悪い口調で言葉を濁された。
何?笹岡と何かあった?
それとも俺がミスした?
思わず眉間に皺が寄る。
この場で話せないということは何にせよ仕事の話ではない。だからこの時間に話し掛けて来たんだろう。
パソコンの画面から顔を上げると大田は意味深な笑みを浮かべていた。
……気持ち悪いな
何なんだよ
「良いから、ちょっと来て下さい」
強引に腕を引っ張って立たせられる。
俺時間あるって言ってないんだけど……
「……何ですか?」
「良いから良いから」
少し声を落とした大田はニヤニヤ笑いながら俺の腕を掴んで歩き始めた。そのまま何の補足もなくナースステーション裏の廊下との出入り口まで連れて行かれる。
こんな半端な場所で何の用だよ?
「大田さん?」
怪訝に思いながら名前を呼ぶ。
俺の視線を受けても大田は気味の悪い笑顔のまま返事もしない。そしておもむろに俺の後ろに回ったかと思うと思い切り背中を押してきた。
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