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「っ!」
その勢いにバランスを崩しながら廊下に追い出される。
危ねぇなあ。何だよ!
大田に文句を言おうとして、廊下にいる人物に目が止まった。
黒髪を後ろでまとめ、頬を上気させた小柄な女。押し出されて来た俺に驚いたのか肩をすくめ、大きな目で見上げている。でもそれは一瞬で視線が合うと反らされてしまった。
佐野……
大田を振り返ると彼女は片目を閉じて手を振った。
『よろしくね』
声は出さず、そう口を動かして中に戻って行く。
よろしくって……用事があるのは大田じゃなく、佐野?
しかもこのシチュエーション?
戸惑い半分、期待半分な気持ちでナースステーションから佐野を隠すように歩み寄る。近づくにつれ俯いていく彼女。
……残念。
不自然にならない程度に距離を保ち、立ち止まる。
「私に用事があるのは佐野さんですか?」
なるべく冷たくならないように声を掛けたつもりだった。それでも彼女は完全に下を向いてしまう。
俺の肩よりも小さい佐野がそうするとまったく表情が伺えない。ただ耳からうなじまで真っ赤になっているのは分かる。
これ、は……
もしかしたら、もしかする……?
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