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「この桜が1番満開だから、ここで食べよっか?」
猿飛は手慣れた様子で、爽やかなストライプ柄のシートを広げる。ふわりと逃げるように花弁が舞い上がった。
「猿飛の友はどこだ?」
「4限目は体育だから、そのうちくるっしょ。」
「体育…長曾我部先生の講義か?」
「………そうだよ。」
猿飛は一瞬悲しげな目をしたが、すぐに笑顔になる。
「毛利サンって空手してたんだね。」
「ああ、祖父の影響で他にも色々と。体力に自信はないが、武道なら得意だ。」
「へえ。綺麗な顔しているし、モテるでしょ?」
………モテる?
我は思わず首を傾げた。
別に意味が分からぬ訳ではない。しかしそのようなものとは縁遠く…
「ははっ!分からない?教室の女の子、皆毛利サンのこと見てたよ。」
「女が見ていたのは、我が物珍しいからであろう。別に嬉しくはない。」
「ふーん、そういうところは変わらないんだね。」
猿飛はどこか困ったように笑う。
我はその笑顔の意味が分からず、代わりにずっと気になっていたことを聞いてみた。
「猿飛はどうして桜の木にぶら下がっていたのだ?それもあんな朝早くから。」
「あーあれは… 予感がしたんだ。」
「予感?」
我は予想にもしなかった言葉に、首を傾げる。そんな我を見て、猿飛はゆっくりと話し始めた。
「いい夢を見たんだ。いつもの血に染まった夢じゃなくて、紅葉と桜が光を纏って降り注ぐ綺麗な夢。」
猿飛の瞳が優しい色に染まる。我は何も言わずに耳を傾けた。
「だからさ、“今日はきっと素敵なことが起こる”と思って、桜の木の上でいたわけ。そしたら毛利サンが来てびっくりしたよ。」
猿飛は広げたシートに座ると、隣をぽんぽんとする。
「隣おいで、毛利サン。」
我は何も言わずに、言われるまま隣に座った。猿飛は満足気に笑うと、湯気の昇るコップを差し出してきた。
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