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「くっ……」 男の持つ木刀にピシリという音と共に亀裂が走る。 「石田、聞いてくれ。毛利サンには……記憶がないんだ。」 猿飛の最後の言葉は小声で聞き取れなかった。 しかし男の目が大きく見開かれ、我を信じられないと見つめる。 「他の者は…知っているのか?」 「多分、休み時間にかすがに頼んだからね。」 「しかし……何故この男だけが覚えていないのだ?全ての悪の元凶であるこいつが…」 “悪の元凶”? この者等が我のことを言っているのか、もう一人の“毛利”を言っているのか分からない。 『この人殺しめっ!』 不意にゾクリと冷たい何かが背中を撫で上げる。その瞬間、懐かしい記憶が浮かび上がった。 ……ああ、そうか… 「昔からそうだった……」 思わず呟いた言葉に、3人の視線が我に集まる。その視線がどういう意味だと問うていた。 「思い出してみれば、小さき頃も見知らぬ者に憎悪の瞳を向けられた。しかしあの頃は何故か冷静にそれを受け止めていた、仕方ないと。」 我は男を真っ直ぐに見つめる。何度見てもその顔に覚えはなかった。 「貴様は我のことを知っているのかも知れぬが、我は知らぬ。そして憎まれる理由も。きっと我は、よほど前世で悪事をしたらしい。」 何気なく言った言葉に、男の瞳は揺れる。 どうすればこの思いは届く? 我はただ、平和に暮らしたい。暮らしたいだけなのに…… 何かがそれを許してくれない。 「我は、憎まれるよりも…笑い合える友になりたい。そなたとも仲良くなりたいのだ。」 …………届いてくれ。 我はゆっくりと男に手を伸ばした。
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